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【9569】 |
メルカトル (2017年02月27日 22時02分) |
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『人ノ町』 詠坂雄二 旅人が世界各地?を放浪し出会う、様々な不思議な出来事。無国籍でありながら旅情を誘う連作短編集。 これは凄いとは思わないがなんかいい。謎もいたってシンプルだがなんかいい。乾いたざらざらした質感がなんかいい。 そう、この作品は読んでいて異国を旅しているような錯覚を覚える、そんな物語なのだ。主人公は旅慣れているので、言葉には困らないらしいし、結構危険な目にあったりもするのだが、落ち着いた言動で余裕をもって回避できる度胸の持ち主だ。そんな旅人とともに放浪気分を味わいたいと思う人にはお薦め。 詠坂氏にしては分かりやすい文体なので思ったより読みやすいし、それぞれの短編がなかなかに印象深いので、長く記憶に残りそうな予感がする。 |
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【9568】 |
メルカトル (2017年02月27日 22時00分) |
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『オーブランの少女』 深緑野分 どの作品も文芸としては一流かもしれないが、ミステリとしてはいささか薄味。しかしながら、どれもなかなかに印象深いのでもっと高得点を付けるのに吝かではないのだが、いかんせんミステリ要素が薄く・・・。 例えば表題作『オーブランの少女』などは、導入部に関しては申し分のない吸引力を持って読者を引き付けるので、その後の展開が物凄く期待できるが、結局謎解きはほとんど皆無であり、起こったことをそのまま書き連ねているに過ぎず、個人的には望んでいない方向へ行ってしまった感が強い。実に勿体ないと思う。 また最終話『氷の皇国』は全般的に引き締まった好編だが、やはり謎解きが中途半端だし、犯人もあまりにミエミエでせっかくの素材が台無しになってしまっている。まあそれを差し引いても高得点は堅いのだけれど。 というわけで、私としては作者の力量は認めるが、このサイトでの採点はこの程度で致し方ないのだ。今後の活躍に期待したい作家ではある。 |
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【9567】 |
メルカトル (2017年02月27日 21時58分) |
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『首折り男のための協奏曲』 伊坂幸太郎 思えば単行本刊行時から文庫化を待ち続けていた気がする。その魅惑的なタイトルに惹かれ、しかし期待を裏切られた時の保険として文庫本を待つ姑息さ。それこそが私の読書に対する姿勢であり本質なのだ。 で結局本作の感想はと言うと、可もなく不可もなくといったところか。タイトルから想像されるようなもっとダークな感じのサスペンスを想定していたことは自分の身勝手ではあるが、考えてみれば伊坂幸太郎がそんな暗い話を書くはずがないではないか。というわけで、この愛すべき短編集は連作と捉えると「ちょっと違う」と思わざるを得ないので、それぞれが独立した短編と考えたほうが都合がいいように思う。下手に首折り男はいったいなぜ次々と殺人を犯すのかとか、どんな残虐な性格の持ち主なのかとか、あまり深追いしないで、それぞれ色の違う短編を楽しむ余裕を持って臨むのが得策ではないだろうか。 個人的には『人間らしく』のクワガタのエピソードが好きだ。本作品集の中ではそれほど重要なポイントではないが、このマニアックさがたまらないのである。『合コンの話』も最もまとまりがあって好感が持てる。 |
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【9566】 |
メルカトル (2017年02月27日 21時56分) |
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『猫には推理がよく似合う』 深木章子 たとえ単行本でも、これはと思った作品は迷わず買うのが私のスタンスでもある。そしてこれは大正解であった。面白い。それはもう非の打ち所がないというか、文句のつけようがないというか。 しかし、何を書いてもネタバレにつながるので、何も書けない。下手なことを書いたらこれから読む人に叱られるのだ。この作品こそ大いに人に薦められるミステリに違いないと私は断定する。あ、個人的に、です。 私はこれを読みながら、昔「新本格」に夢中だったころの自分を思い出していた。雰囲気が何となくあの頃のそれに似ていなくもないような・・・。とにかく、文庫化されてからでもいいから読んでほしいなあ。 |
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【9565】 |
メルカトル (2017年02月27日 21時54分) |
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『今はもうない』 森博嗣 このような変化球は私の好むところである。導入部の爽やかさも非常に印象深く、感銘を受けた。だが美点ばかりというわけではない。みなさんご指摘されているように、シンプルな謎のわりにページ数を割きすぎなのは否めないであろう。こんな解決法がありますよと小出しにするのはいいが、どれも驚くようなものではなく、正直予測の範疇に収まるといえる。さらに最後に萌絵と犀川による謎解きがおこなわれるが、あまりにあっさりしすぎていて何かこう物足りなさを感じる。 密室の謎はさして珍しいものではないが、メイントリックはかなりいい。森博嗣がこんなものを?といった意外性は見逃せないものがある。 それにしても西之園の気性の荒さばかりが目立つ作品ではあった。それも魅力なのかもしれないが、私は御免こうむりたい。 |
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【9564】 |
メルカトル (2017年02月27日 21時52分) |
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『Dの殺人事件、まことに恐ろしきは』 歌野晶午 江戸川乱歩の作品を現代に蘇らせ、最先端のハイテクを駆使して本家とはまた違った目新しさを披露する短編集。元ネタは『人間椅子』『押絵と旅する男』『D坂の殺人事件』などで、これらを読んでいるとより楽しめることは間違いないが、未読でも支障はない。 目立つのはスマホの機能を最大限に利用している作品が多いこと。やはり現代人にとってスマホはどうあっても手放せないアイテムなのだろう。だが、スマホを使いこなせない人にとっては、理解不能な部分もあると思うので、そこは想像力で補うしかないと思う。 しかし、これはあまり公言できないことかもしれないが、個人的に歌野晶午という人はどうも垢抜けないところがある気がしてならない、文章やプロットなど。私だけだろうか。 |
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【9563】 |
メルカトル (2017年02月27日 21時49分) |
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『ジェリーフィッシュは凍らない』 市川憂人 『そして誰もいなくなった』を意識した作品としては出来はいいほうだと思います。構成はしっかりしているものの、なぜか全体的にすっきりしない感じがします。飛行船の中で起こる殺人劇と、それから遅れること数か月の捜査が交互に描かれているプロット自体は悪くないのですけどね。 一つとても気になる点もあります。検死に関することなんですが、ややあっさりし過ぎているような。まあ、あまり突っ込むと自らネタバレしてしまう可能性が高いですから仕方ないですかね。 トリックはそれほど大胆なものではなく、手品のタネを明かされた時のがっかり感が漂います。ただし、それをうまく隠ぺいしている手腕は確かなものがあると思います。 エピローグがそのまま解決編になっている辺り、センスを感じますね。 |
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【9562】 |
メルカトル (2017年02月27日 21時47分) |
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『闇に香る嘘』 下村敦史 なかなかの良作だと思います。ただ盲目の主人公の一人称で描かれているためもあり、終盤までやや冗長だしいささか退屈な感じは否めません。題材が中国残留孤児だからある程度やむを得ないかもしれませんが。 巻末の参考文献を見るまでもなく、作者は相当深く理解に及んでから書き始めたようですし、読者もいろんな意味で勉強になります。残留孤児に関して、視覚障碍者に関して。 終盤謎解きに至り、一気に覚醒したがごとく面白くなります。それまで社会派の印象が強かったですが、ここに来てようやく本格ミステリの本領を発揮しますね。まさかの展開が待っています。エピローグも一抹の救いがあっていいですね。 個人的に『占星術のマジック』が受賞を逃す以前から乱歩賞とは相性が悪いですが、これは合格ラインではないかと思います。 |
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【9561】 |
メルカトル (2017年02月25日 21時53分) |
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『虚実妖怪百物語 急』 京極夏彦 さて、いよいよ最終巻です。 「妖怪小説に7点も付けるのはどうなの、お前は」というご意見も十分頷けますが、面白いのだから仕方ありませんね。 今回は新たに夢枕獏や鈴木光司らが登場します。本シリーズは京極夏彦氏の交友関係を熟知するほど面白みが増します。どの人物がどんな役割を果たすのかといった観点に注目すると、より楽しめると思います。まあ、ほとんどの読者がそれらの恐らく実在の人物を知らないので、この人はこんな風貌でこんな性格なんだろうなと想像を逞しくして読む他ありませんが。 本作、妖怪やら怪獣やら漫画の主人公が暴れまわるクライマックスもいいですが、その後に訪れる実に平和でのんびりとした露天風呂のシーンがとても印象深いんです。こんな静かな落ち着いた雰囲気の場面を読むのはいつ以来だろうかと、遠い過去を懐かしむとともに、噛み締めるように読める幸せを実感します。 で、結局多数の登場人物の中、荒俣宏が主人公なのでしょうかね。最も盛り上がるシーンで活躍します。京極夏彦はミステリ的側面の謎解きを一応担当して、面目を躍如し、一番最後に水木しげる先生が美味しいところをさらいます。 最後まで読んで良かったと思えるような楽しい作品ではありました。 |
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【9560】 |
メルカトル (2017年02月25日 21時51分) |
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『虚実妖怪百物語 破』 京極夏彦 前作の地味な展開から一転、ど派手で荒唐無稽なストーリーへと発展していきます。妖怪どころか、巨大ロボが発進し、それに搭乗しているのが荒俣宏なのです。さらに木原浩勝はヘリからパラシュートで落下し、都知事を襲来し槍で突き刺したりします。どうやら黒幕はあの『帝都物語』の加藤らしいと匂わせています。 今作では新たに綾辻行人、貫井徳郎が登場。前作からの京極夏彦や平山夢明もそれなりの活躍をします。活躍というか、彼らは意見するだけで行動は起こしませんけど。で、あの水木しげる先生は・・・次巻で大いに暴れる予定(勝手な予想)です。 まあとにかく、コメディタッチで描かれながら、抑えるべきツボは抑えている感じで、笑える上に高揚感も味わえるという贅沢な一品に仕上がっていることは確かです。最終巻でどうケリをつけるのか楽しみであります。 |
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