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【9589】 |
メルカトル (2017年03月02日 22時02分) |
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『女王国の城』 有栖川有栖 まず、江神が新興宗教の本部に軟禁されているのではないか?という冒頭の謎からして引き込まれる要素は十分。 序盤から中盤にかけては、多くの方が指摘されているようにテンポの悪さが目立ち、本筋とあまり関係ないと思われるエピソードがいくつか見られるのはマイナス点か。が、織田とマリアの脱出劇などの冒険シーンは個人的には読みごたえがあった。まあここは無駄に長いという意見も分からないでもないけれど。 過去から飛来した凶器の拳銃、閉ざされた聖洞、緻密に絞られる犯人像など、江神の推理は冴えわたり、全く齟齬のない解決を披瀝し読者をねじ伏せる。 ただ一点、人類協会代表の野坂公子が姿を現すことが最後の最後まで一度もなかったのが気になっていたのだが、それもエピローグを読んで深く納得したのである。なるほど、こんなところにも仕掛けというか、伏線が張られていたのかと思うと、作者の懐の深さを実感せざるを得ない。 |
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【9588】 |
メルカトル (2017年03月02日 22時01分) |
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『さあ、地獄へ堕ちよう』 菅原和也 第三十二回横溝正史賞受賞作。 主人公は抗不安剤、鎮痛剤などを乱用する、SMバーのホステスで、彼女の周囲で猟奇殺人が連続する。どうやらある闇サイトが関係しているようなのだが。 本作はよく言えば問題作、悪く言えばグロすぎる。これに比べれば『OUT』などは子供みたいなものと思える。映画ならばR指定なんだろうけど、小説の場合はそういう縛りはないのでもちろん誰でも読める。しかし、気分が悪くなりたくない読者は避けるのが無難だろう。身体改造とかに興味がある人は試しに読んでみるのもいいかもしれないが。ちなみに、謎の中心である闇サイトの正体は最初に予想した通りだったので、ややがっかりだった。 ミステリ的要素は後半に若干みられるが、これが横溝正史賞とはねえ。この時の選考委員が誰だったか知らないが、ちょっと悪趣味じゃないのかな。しかし菅原氏のその後の活躍を考えると、まんざら的外れだったとも言えないかもしれない。 いずれにしてもアングラのダークな雰囲気は半端ない。 |
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【9587】 |
メルカトル (2017年03月02日 21時59分) |
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『聖女の毒杯』 井上真偽 雰囲気は前作とあまり変わらないが、今回はウエオロの代わりに弟子の八ツ星が終盤まで頑張っている。そのため主役の影がやや薄くなっているような気がしないでもない。さらに謎のスケールが格段に小さくなっている。どうしても毒殺というのは地味な印象が拭えないので、こうした派手ななぞかけの応酬を描こうとすると、重箱の隅をつつくような感じになってしまうよね。 まあしかし、その場で思いついた推理を次々と否定していく様は、ある種の推理合戦と言えなくもない。そのようなパズラーを所望している方にはむいているだろう。ただ、あれこれケチをつけようと思えばいくらでもできるとは言える。 |
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【9586】 |
メルカトル (2017年03月02日 21時57分) |
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『かめくん』 北野勇作 第二十二回日本SF大賞受賞作。 どこか掴みどころのない作品だが、時折まさにSFといったような表現が飛び出して驚かせたりもする。 かめくんはカメ型ヒューマノイドであり、レプリカメとも言うらしい。本作はかめくんの日常を抒情的に描いた連作短編のような作品である。かめくんが、図書館で本を借りたり、家で猫を飼ったり、倉庫でリフトに乗り働いたり、たまに、いや結構推論したり、ワープロを打って人に訴えかけたり、ある女性にほのかに好意を抱くようだったり、つまりはそういった何でもないような出来事をユーモアを交えて描かれている。だが、かめくんには持って生まれた役目があるらしいのだ。それは木星戦争に関係しているらしいのだが、正確なところは最後まで明らかにされない。 終盤、かめくんが「たねがしま」に向かい、家を出て知り合いに別れを告げる辺りはなぜか切なさが込みあげてくる思いがしたものだ。 本作はSFとしては勿論、一つの小説としても評価できる、実に味のある逸品ではないだろうか。 |
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【9585】 |
メルカトル (2017年03月02日 21時55分) |
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『水族館の殺人』 青崎有吾 デビュー作に続いてガチガチの本格。でありながら、青春ミステリの側面をチラッと覗かせているところは、作者のサービス精神からなのだろうか。 被害者がサメの餌食になるというショッキングな滑り出しは瞠目させられるが、その後は論理による謎解きの連続で、ややロジックに偏りすぎな感がしないでもない。その中にもハッとするようなトリックや仕掛けが隠されているのならばメリハリも付くのだが、そうした意外性がないのはやや拍子抜けの思いが拭いきれない。勿論、論理によるアリバイ崩しから11人もの容疑者を絞っていくというのも本格ミステリの醍醐味だろうとは思うが。 なお、動機に関しては個人的には納得とまではいかないが、アリだという気がする。読後感も思ったほど悪くはなかった。 |
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【9584】 |
メルカトル (2017年03月02日 21時53分) |
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『誰も僕を裁けない』 早坂吝 全体のプロットから細部に至るまで神経が行き届いており、上手にまとめ上げていると思う。しかも、社会派エロミステリの謳い文句は伊達ではなく、その名に恥じぬ?なかなかの完成度である。 一方、トリックに関してはいかにも安直であっと驚くような派手さはない。エロ度も抑え気味で、そちらに期待している読者はやや裏切られたように感じられるのではないだろうか。 途中までは全く関連性のなさそうな二つのストーリーが並行して進むが、これがまた上手く繋がってきて大きく肯かざるを得ない手腕は見事だ。 序盤これはキテると思うほど面白いのに、次第にトーンダウンしていく様はただただ残念な限り。終盤やや盛り返すが、やや小さく纏まってしまった感じがする。 |
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【9583】 |
メルカトル (2017年03月02日 21時51分) |
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『Xの悲劇』 エラリー・クイーン 遠い昔、途中まで読んだが「犯人を知っていた」ため頓挫して、そのまま放置されていた一冊。このたび、ふと思い立って再読しようと決意するに至った。結果、名作の名に恥じぬ面白さで最後まで飽きることなく読めた。久しぶりにページを捲ってみて本当によかったと思えた次第である。 第一の殺人の思いもよらぬ凶器から始まり、捜査陣の心理状態やレーンの鮮やかな行動、第二第三と続く殺人など過不足なく描かれており、ラストの謎解きではまさにレーンの鋭すぎる推理が炸裂する。俯瞰的に見てもよくまとまっており、バーナビー・ロス名義でのデビュー作として、また悲劇四部作の第一作として十分に評価できる作品だと思う。 ただ、真犯人の正体がなぜ誰にも気づかれなかったのか、容疑者があまりに個性がなさすぎるなどの点が気になりはしたが。 |
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【9582】 |
メルカトル (2017年03月02日 21時49分) |
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『貴族探偵対女探偵』 麻耶雄嵩 亡き師匠の教えを忠実に守り、真面目に事件の謎に取り組む女探偵と、相変わらずふざけた貴族探偵の対決。こうなるとやはり、女探偵に味方したくなるのが人情というもの。むしろ心の中では貴族探偵が失脚すればいいのにと思っていたりして。 しかし、貴族探偵は簡単には馬脚を現さない。その辺りが憎いところではあるのだが。 各短編はストーリーやトリックは意外と単純なのだが、それぞれ捻りが効いており、また趣の違うタイプの作品なので飽きが来ない。 最終話は使用人が登場できないので、どうなるのかと思ったが、なるほどそういう手があったかという、いかにも作者らしい作品である。思ったより気軽に楽しめる連作短編集といった印象。 |
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【9581】 |
メルカトル (2017年03月02日 21時48分) |
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『スイス時計の謎』 有栖川有栖 以前、ある知り合いの女性が有栖川有栖の国名シリーズを好んで読んでいた。曰く「面白い、読みやすい」と。私は初期の江神二郎シリーズや『マジックミラー』『46番目の密室』などは読んでいたが、国名シリーズにあまり思い入れはなかったため、そんなものかくらいにしか思っていなかったものだが、本作を読んで考えを改めた。 表題作の目から鱗が落ちるような鮮やかな解決。『あるYの悲劇』のダイイングメッセージの意外性と意表を突くがごとき発想の突飛さ。ほかの二作もそれぞれトリックに新味が感じられ、好感が持てる。 まるでまろやかなココアのような舌触り、そんな読み心地の良い短編集であった。 |
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【9580】 |
メルカトル (2017年03月01日 22時28分) |
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『シャーロック・ホームズの冒険』 コナン・ドイル 子供の頃読んだ時は、ホームズ凄いなあとその慧眼や行動力に憧れたし、これがミステリなんだと感心したものだ。しかし今読んでみると、やはりやや落胆の思いが隠せないのだ。だが、幾人かの方が書かれているように、これが100年以上前の作品であることや、その歴史的価値を鑑みて、8点とした。もし現代の作家によるものであったなら、6点程度と個人的には考える。 ケチをつければいくらでもつけられるホームズの推理だが、その超人ぶりはあの御手洗潔すら凌駕するものである。島荘がいかにこの世界的名探偵の影響を受けたかがうかがい知れるというもの。 各短編は、サスペンスあり、日常の謎的なものあり、意外な凶器あり、教訓を得られるものありとバラエティに富んでおり、タイトル通りまさに『冒険』と呼ぶにふさわしい作品集となっている。 角川文庫版はコスパも優れており、訳も現代的で非常にこなれて読みやすいと思うので、読むならこれではないかと。 |
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