■ 9,999件の投稿があります。 |
【9669】 |
メルカトル (2017年03月10日 21時51分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『臓器賭博』 両角長彦 ギャンブラー心に火を付ける(ギャンブラーじゃないけど)、本格ギャンブル小説。 主人公の古賀は普段はバーの雇われマスターだが、本来は生粋のギャンブラーである。物語は、彼がある大会社の御曹司が地下賭場で大金と臓器のいくつかをかたに取られており、その代打ちを依頼されるところから始まる。相手は4人で、勝負はポーカーの一手替え。古賀は果たして取られた臓器を取り戻すことができるのか、そして依頼通り5000万を手に入れられるのか・・・ できうる限り余分な描写をカットし、必要最低限の文章で仕上げられた、娯楽作品。だがそれだけではなく、サスペンスの要素や各登場人物の裏事情、日本の不安定な将来への展望などを盛り込んでおり、単に博打の実況のみが描かれているわけではない。 重い内容の割には、淡々とした文章で綴られていて、余計なストレスや重圧感を感じることはない。それでも、臨場感に溢れているので、最後までのめり込めるし楽しめること請け合いである。 ただ、1ページ目は衝撃的ではあるが、あまりに杜撰なやり口は臓器賭場とそぐわないのが気になる。それと、種目がポーカーなので、勝負が一瞬で決まってしまうため、ひりついた感じが薄いのは若干残念な点ではある。 |
|||
【9668】 |
メルカトル (2017年03月10日 21時50分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『ようこそ、わが家へ』 池井戸潤 ドラマ化されたのを観るともなく観ていて、そこそこ面白そうだったので読んでみた。ドラマのほうは登場人物を増やしていたり、エピソードを膨らませてみたりして、かなり脚色しているが、それが功を奏しているようである。個人的にはドラマのほうが面白そうな印象を受ける。 原作は思ったよりあっさりしていて、正直読み応えがあるとは思えない。ただ、主人公の倉田はどこにでもいそうな弱々しい、銀行からの出向組で、中年の悲哀が感じられたりして感情移入しやすいのは間違いない。 帰宅する電車への割り込みを注意したため、逆恨みで付け狙われるサスペンスのパートと、倉田が会社内で不正を暴いていくパートの、全く異なる二つの小説を交互に読んでいるような錯覚を受ける。どちらも均等に描かれているが、双方ともやや中途半端な感じがしないでもない。池井戸氏らしく堅実に描かれているが、個人的には面白みに欠けるきらいがあるのはマイナス点かも知れない。 |
|||
【9667】 |
メルカトル (2017年03月10日 21時48分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『この闇と光』 服部まゆみ 解説の皆川博子氏は、この作品についてはほぼ触れていない。何を書いてもネタバレにつながるから、という理由だが、それももっともであると感じる。それだけ特異な小説であるという証左であると同時に、なかなかお目にかかれない希少価値の高いものであると思われる。 作風としては綾辻行人のホラーに若干類似しているような気がする。作風というか、雰囲気か。確かにサスペンスではあるが、その純度は低い。とにかく、これは読まなければその真価は理解できない。誰がどう感想を書こうとも、真実はうまく伝わらないだろう。 ついでに言うと、帯の謳い文句も必要ない。ネタバレ禁止と書きながら、禁句が堂々と載せられているのはどうかと思う。 尚、本作が直木賞にノミネートされたのは、私にとって意外な事実であった。 |
|||
【9666】 |
メルカトル (2017年03月10日 21時47分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『ナポレオン狂』 阿刀田高 直木賞受賞作『ナポレオン狂』日本推理作家協会賞受賞作『訪問者』収録の短編集。 いずれもブラックなオチが持ち味の、キレのある短編で、ボリュームもちょうどいい感じに収まっている。中にはやや意味不明の、オチのないのも含まれているが、大方好印象。 さすがに文章も慣れたもので、30年以上過ぎた今でも色褪せない輝きを保っている。と同時に古臭さを感じさせない辺りは見事と言って良いだろう。 どこにでもいそうな主人公のごく当たり前の日常の中に、じわじわと或は突如として異常が出現し、彼らの精神の中に侵食していく物語が多い。派手さはないものの、再読に耐えうる逸品が散見される。ほかの作品集も読んでみたくなるような気にさせられる良作である。 |
|||
【9665】 |
メルカトル (2017年03月10日 21時45分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『罪の余白』 芦沢央 いじめを受けて、自殺なのか事故死なのか判然としないが転落死した女子高生。その父親が、いじめられていた相手に復讐を計画する物語。ストーリーは四人の視点から描かれるが、被害者側の心理状態はそれなりに描写されているが、加害者のほうはそれほど深くえぐられていない感じを受ける。物語に新味はなく平凡であるし、オチも捻りもなく、これと言って特筆すべき点が見当たらない。 本作は第三回野生時代フロンティア文学賞を受賞したらしいが、にわかには信じがたい。そこまでの価値があるのかどうか。 お世辞にも文章がうまいとは言い難く、プロの作家に手によるこなれた作品というより、作家志望の習作というのがいいところだろう。賢明なる本サイトの読者はくれぐれも読まれないことを強くお勧めする。 |
|||
【9664】 |
メルカトル (2017年03月10日 21時43分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『彼女は存在しない』 浦賀和宏 面白いか、面白くないかと聞かれれば、どちらとも言えない。やりたいことは分かるが、ストレートに伝わってこない。せいぜい「そうだったのか」程度にしか思えず、あっと驚くような、なるほどと膝を打つような、そんな感じがなかったのは残念な限り。 私も内容の割に長かった気がする。冗長とは言えないかも知れないが、緊迫感に欠け、なんとなくだらだらとした感触が否めない。なんだろう、プロットの問題なのか、文体の問題なのか分からないが、上等な材料を上手く料理できなかったような、というのが本音かな。 中身については触れないのが大人の対応だろう。未読の方には多分わけわからないと思うが、許されたい。 |
|||
【9663】 |
メルカトル (2017年03月10日 21時41分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『なないろ金平糖 いろりの事件帖』 加古屋圭市 大正ロマンミステリ第三弾。 主人公のいろりは家業の金平糖屋の店番などをして暮らしている18歳の少女。彼女は金平糖を口に含むことによって千里眼を発揮できる能力を持っている。他にも、飼い猫のジロと会話も出来たりする。そんな彼女が遭遇する事件に、妹分の絹と猫のジロと共に立ち向かって行くというストーリー。 語り口、ストーリー展開共にどことなく平板で、変化に乏しい。どちらかと言うと、彼女らの個性で読ませるミステリとなっているが、ミステリ度はあまり高くなく、エンターテインメント小説の意味合いが強い。 最終話などは本格推理というより、いろり、絹、ジロの冒険譚といった趣だ。 この大正シリーズ、段々レベルが下がっているのがやや気になる。 |
|||
【9662】 |
メルカトル (2017年03月10日 21時39分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『CUT 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子』 内藤了 身体の一部を持ち去られた女性の死体が、幽霊屋敷と呼ばれる古い館で、次々と発見される。主人公の比奈子ら刑事は捜査を行うが、遅々として進まない。果たして犯人の目的とは、そして真犯人は誰なのか・・・ 死体発見の描写はいささか気分が悪くなるようなもので、それが却って引き込まれる要因となっているが、それ以外はダラダラとした文章が綴られるばかりで、一向に盛り上がらない。 目くらましのミスリードが目立つが、あざとさしか感じられない。その割には伏線と言えるようなものは存在せず、結局唐突に犯人が登場するのみで、終始がっかりの連続であった。死体を損壊する目的もありきたりで、まさしく凡作としか呼べないような代物だった。 |
|||
【9661】 |
メルカトル (2017年03月10日 21時37分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『封印再度』 森博嗣 好きか嫌いかと問われたら、好きな部類。これはワン・アイディアを骨として肉付けし、ストーリーの最後まで引っ張っていく作品である。しかもその肝となるトリックが骨太なため、最終章まで興味を持って読み終えることができる。 事件そのものは、再現性も含めて意外に単純だが、意表を突くトリックによって後味の良いものとなっていると思う。ただ動機だけは、相変わらず理解しづらい。 萌絵のある行動で意見が分かれているようだが、確かにちょっとやりすぎの感はあるが、これも作者のサービス精神からくるものと考えられなくもない。個人的には鼻持ちならないと感じるが、まあこういった強引な駆け引きをもって、二人の心理状態を明らかにする意味はあったのではないだろうか。 タイトルに関しては、大方の意見通り秀逸だと素直に思う。 |
|||
【9660】 |
メルカトル (2017年03月09日 22時17分) |
||
これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
『雪の花』 秋吉理香子 いずれもミステリとは言えないが、なかなかの佳作ぞろいの短編集ではないかと。 あとがきにあるように、作者は早稲田の文学部で習作を何度も書いていたり、小説の作法など学んだだけあって、その実力は折り紙付きと言えよう。とにかく分かりやすい文章と、情景が浮かんでくる描写力を兼ね備えた、隠れた筆達者なのかもしれないと個人的には思っている。 どれも及第点は越えていると思うが、中でも『秘蹟』は最も印象深い作品である。キリスト教色が濃いが、特段教義を押し付けるでもなく、人間の奥深いところにある機微を抉りながらも、老人介護などの社会問題や夫婦問題を描く、ある意味社会派ミステリと言えるかもしれない。 書店では見つからない可能性が高いだろうが、目にした際には手に取ってみることをお勧めする。 |
|||
© P-WORLD