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【202】

★お父さん★(3)

たいちょ。 (2007年02月03日 17時54分)
医者に電話したら「一日でも早く手術しないと」って話で、
友達にお父さんが医学部の教授ってやつがいて、そいつに頼んで
「消化器ガンなら日本一」って先生を紹介してもらった。

三日後に入院して七日後に手術。
胃全摘、脾臓全摘、膵臓半分摘出の大手術。


手術の前の晩、親父と二人で人気のない病院のロビーで、手術のこと話した。
地元の病院で撮った胃カメラの写真を見て、自分の病気はよく知っていた。
どんな状態かも知っていた。
でも「悪いところ取って、ようやく第二の人生だな」と笑って言っていた。
明るい親父に家族はどれだけ救われたことか。


手術が終わって、先生に摘出した臓器を見せてもらった。
金属製のバットに山盛り。
こんなに取っても人間は生きられるのかって思った。
先生は「取れるところはすべて取りましたよ。
 後は抗ガン剤で転移巣をやっつけます。」と言っていた。
でも、手術後少ししてからずーっと背中に激しい痛み。
抗ガン剤も効果はいまひとつ。
俺と妹と母親と、親戚の家から毎日病院に通って交代で
夜通し付きっきりの看病。
妹は50kgから30kgに激やせ。


もう痛みが我慢できないと言うので、真っ赤なモルヒネ錠剤を
経口で投与して痛みを抑えてた。
モルヒネが効いているうちはなんとか普通の感じ。
車いすに乗っけて、中庭に連れて行ったりもした。


俺、親父と二人っきりでいたことなんてないからなんとなく気まずくて、
車いすを景色のいいところに押していって、
少し離れたところでぼーっと座ってた。


「近くにいてくれないか」と言われて近くに行ったら、
子供の頃手をつないでもらった時とは比べものにならない
くらい細くなった腕を膝掛けから出して、
しわしわになってしまった手でぎゅっと手を握られた。




二人で声も出さずに泣いた。



明日へつづく
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【203】

★お父さん★(4)  評価

たいちょ。 (2007年02月04日 10時36分)


ある日「五年後の話をしてくれないか」とベッドの父に聞かれて、


「俺は29だからたぶん大学で研究してるな。
 妹は24か。結婚して子供もできてるかもよ。
 お母さんは、うーん、まだ店がんばってるんじゃない?
 お父さんは、退院しても胃がないから、毎日グルメ番組見て、
 あれがうまそうだ、とか、これ買ってこい、とかわがまま言ってるかもよ」
なんて答えてた。

そんなに長く生きられるなんて俺も親父も思っていなかったくせに。

五年後がどんなに遠い未来なのかも分かっていたくせに。



結局、親父は死んでしまった。
手術から三十三日。
病院で胃カメラ飲んでから四十日。
62歳の誕生日から十日。


夕方研究室から病院に行ったら、もう息を引き取ってた。
「実験してるだろうから、呼ばなくていいぞ」って言ってたらしい。
最後に何かを言い残したらしい。
でも、俺は親父がなんて言ったのか知らない。
悲しすぎて知りたくない。


あんな大手術をさせて、殺してしまったのは俺だって、ずーっと思ってる。
俺が手術をすることを決めて、家族もみんな俺の言うことに納得してくれて、
でもその結果、親父をあっという間に殺してしまった。
悔やんでも悔やみきれない。
ごめんな、お父さん。
本当にごめんな。


葬式。
親戚が「まだ学校に行かせてるのか」なんて、
何にも知らないくせに母親に言ったりしてた。

「この子はお父さんのできなかったこと頑張ってるんだから、
 私一人でも最後まで学校に通わせるつもりです。
 この子はお父さんの夢なんです。」
って、言ってくれた。

ドアの向こうでそれを聞いていた。
親は有り難いと思った。
もう泣かないつもりが、止めどなくあふれた。


最終回の(5)へつづく

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