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【96】

それでも生きていこう…(4)

たいちょ。 (2006年12月13日 12時44分)

「お前、この仕事向いてないよな?自分でもわかるだろ?
 辛いだけだぞ?こんな仕事続けても。まだ若いんだから
 転職でもしてみたらどうだ?」
ある時、上司から告げられた。

俺は馬鹿だけど、上司が何を言いたいのかは分かった。
次の日、辞表を出した俺に上司はうれしそうに
「お疲れさん!」

同僚たちはいつものように仕事をしていた。
いつも以上に忙しそうに。


その日夜遅くまで公園で時間を潰した。

家に帰った俺に、母親がいつもの笑顔で
「お疲れ様」といった。

「会社、辞めてきたよ」と言った俺に、一言。

「お疲れ様」
同じ笑顔だった。



数ヶ月前。
職を探していた俺が、いつものように家に帰ると母親がいなかった。

夜遅くに電話が鳴った。
病院からだった。
母親の声だった。
いつもの優しい声で、具合が悪くなったので医者に言ったら
入院するように言われたこと。今日はもう面会できないから、
明日必要なものを持って病院に来て欲しいことなどを告げられた。

次の日、保険証やら着替えやらをもって病院に行った。



癌だと、医者から告げられた。
末期の胃癌だったそうだ。
もう、助からないらしい。

いつものように優しい母親。
目を見ることができなかった。

一人で家に帰って、父親に告げた。
父親の前で泣くのは、これが2回目だった。

〜〜夕方につづく〜〜

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【99】

それでも生きていこう…(5)  評価

たいちょ。 (2006年12月13日 19時18分)


1ヶ月ほどたった日、母親がかすれた、それでも優しい声で言った。
「もう助からないんでしょ?分かってるのよ。」
俺は黙ってしまった。

母親はいつものように優しい声で
「どう?仕事は見つかりそう?」
話題を変えた。

俺は我慢しきれずに泣いてしまった。
母親はずっと俺の手をさすっていた。



数少ない親戚が久しぶりに集まった。
「あの人は本当に良い人で…」
「惜しい人を…」
どこかで聞いた台詞であふれていた。

俺は淡々と喪主を勤めた。



ここ数ヶ月、ずっと独りで、とても広く感じていた家。
その日からさらに広く感じた。

骨壷は思っていたよりも軽かった。

家に帰った俺は机の上においてあったノートを手にとった。
母親の病室の、枕の下から出てきたノートだ。



日記だった。
入院してから、1ヶ月くらいから、死ぬ2,3週間前までの。

その日記は父親との会話でつづられていた。
2,3日分の日記を読んで、泣いてしまった。
書かれているのは全部俺のことだった。

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