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【186】 |
綺華 (2014年11月21日 23時30分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
(その1は、【88】) そして、俺の行為をパフォーマンスだと思い込む人も増え始めたんだな。 俺のこと、腕の立つパントマイマーだと褒めちぎるやつもいた。 逆に、「ミヤギさんは元気?」とかたずねてくる人も現れ始めてさ。 そう、徐々にだが、ミヤギの存在は受け入れられ始めたんだよ。 もちろん皆、透明人間の存在を本気で信じたわけじゃなくて、 なんつーか、俺のたわごとを、共通の”お約束”として扱い、 俺に話を合わせてくれるようになった、って感じ。 俺は「可哀想で面白い人」扱いを受けるようになったんだ。 この夏、俺はこの街で、一番のピエロだったんじゃねーかな。 良くも、悪くも。 |
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【185】 |
綺華 (2014年11月21日 23時29分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
(その1は、【88】) 一人あひるボートの後も俺は、 一人観覧車、一人メリーゴーランド、一人水族館、 一人シーソー、一人プール、一人居酒屋、 とにかく一人でやるのが恥ずかしいことは大体やったな。 どれをやるにしても、俺は積極的にミヤギに話しかけた。 頻繁に彼女の名前を呼び、手をつないで歩いた。 段々と、俺は不名誉な感じの有名人になっていった。 俺の顔見るだけで指差して笑う人も、かなりいたな。 ただ、幸運なことに、俺はいつでも幸せそうな顔をしてたから、 俺を見て逆に楽しい気分になる人もそこそこいたらしいんだ。 |
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【184】 |
綺華 (2014年11月21日 23時28分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
(その1は、【88】) バスに乗って、俺たちは湖に向かった。 そこで俺がやらかしたことを聞いたら、 大半の人間は眉をひそめるだろうな。 周りには一人客に見えているのを承知で、 俺は「あひるボート」に乗ってやったんだ。 係員の男が「一人で?」という顔をしたので、 俺は彼には見えていないミヤギに向かって、 「さあ、行こうぜ」とか声をかけてやった。 係員、半分怯えたような目をしてたな。 ミヤギはおかしくてしかたがないらしく、 ボートに乗っている間もずっと笑っていた。 「だって、成人男性一人であひるボートですよ?」 「なんか、一つの壁を越えた気がするね」と俺は言った。 |
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【183】 |
綺華 (2014年11月21日 23時27分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
(その1は、【88】) 通り雨だったらしく、雨はすぐにやみ始めた。 空には、うすぼんやりと虹が浮かんでいたな。 「あの、さっきの……ありがとうございます」 ミヤギはそう言って俺に肩を寄せた。 “堅実に”、か。 俺は古書店の爺さんのアドバイスを思い出していた。 考えてみれば、俺にはできる事があるんだよな。 『借金を返す』って考えに縛られてたけどさ、 こうやって俺が周りに不審者扱いされることだけでも、 彼女はずいぶん救われるらしいじゃないか。 そうなんだよ。俺は彼女に、確実な幸せを与えられるんだ。 目の前にやれることがあるのに、どうしてそれをやらない? |
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【182】 |
綺華 (2014年11月21日 23時26分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
(その1は、【88】) 商店の軒先で雨宿りしていると、知った顔に出会った。 同じ学部の、挨拶程度は交わす中の男だ。 そいつは俺の顔を見ると、怒ったような顔で近づいてきた。 「お前、最近いったいどこで何してたんだ?」 俺はミヤギの肩に手をおいて、言った。 「この子と遊び回ってたんだよ。ミヤギっていうんだ」 「笑えねえよ」と彼は不快そうな顔をして言った。 「あのな、クスノキ。前から思ってたが、お前病んでるんだよ。 人と会わないで自分の殻にこもってるから、そういうことになるんだ」 「あんたがそう思うのも、無理はないよな。 俺があんたの立場だったら同じ反応を示したと思う。 でも、確かにミヤギはここにいるんだよ。その上、かわいいんだ」 俺はそう言って一人で大笑いした。 彼はあきれた顔をして去っていったな。 |
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【181】 |
綺華 (2014年11月21日 23時25分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
(その1は、【88】) 「こういうの、好きだなあ」とミヤギが笑う。 「どういうのが好きなんだ?」と俺は聞きかえす。 「周りには滑稽に見えるかもしれないけど、 あなたが左肩を濡らしてることには、 すっごく温かい意味がある、ってことです」 「そうか」と俺ははにかみながら言った。 「恥知らずの、照れ屋さん」とミヤギは俺の肩をつついた。 すれ違う人たちが俺のことを不審そうに見ていた。 そこで、俺はあえてミヤギと話し続けてやった。 ここまでくると異常者扱いされるのが逆に楽しかったし、 何より、こうすることでミヤギは喜んでくれるから。 俺が滑稽になればなるほど、ミヤギは笑ってくれるから。 |
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【180】 |
綺華 (2014年11月21日 23時25分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
(その1は、【88】) 参考になるんだかならないんだか分からないアドバイスだったな。 外ではいつの間にか、夏特有の大雨が降ってた。 俺が店を出ようとすると、さっきの兄ちゃんが傘を貸してくれた。 「よく分かんないけど、何か成し遂げたいなら、 まず健康は欠かせませんからね」とか言ってさ。 俺は傘をさして、ミヤギと並んで帰った。 小さい傘だったから、お互い肩がびしょ濡れになった。 傍から見たら俺は、見当違いな位置に 傘をさしてる馬鹿に見えただろうな。 |
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【179】 |
綺華 (2014年11月21日 23時24分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
(その1は、【88】) 古書店を出た俺は、その流れで、 いつも通っていたCDショップに足を運んだ。 店員の兄ちゃんには、爺さんについたのと同じ嘘をついた。 しばらく最近聴いたCDの話をした後、俺はこう聞いた。 「限られた期間で何かを成し遂げるには、どうすればいいんでしょうね?」 「人を頼るしか、ないんじゃないっすかね」と彼は言った。 「だって、自分一人の力じゃ、どうにもならないんでしょう? と来たら、他人の力を借りるしかないじゃないですか。 俺、個人の力ってのをそこまで信用してないんすよ」 |
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【178】 |
綺華 (2014年11月21日 23時23分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
(その1は、【88】) 何気ない会話を、二十分くらい交わした。 会話は全然噛み合ってなかったんだが、 それでも俺は独特の安らぎを覚えたな。 去り際、俺はさりげなく爺さんに訊ねた。 「自分の価値を高めるには、どうすればいいと思います?」 爺さんはラジオのボリュームを落とした。 「そうさな。堅実にやる、しかねえんじゃないか。 それは俺には出来なかったことなんだけどな。 なんつうかな、結局、目の前にある『やれること』を、 一つ一つ堅実にこなしていくこと以上にうまいやり方はねえんだ。 ――だが、それよりももっと大切なことがある。 それは『俺みたいな人間のアドバイスを信用しない』ってことだ。 成功したことがないくせに成功について語っちまうようなやつは、 自分の負けを認めたがらないクズばっかりだからな」 |
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【177】 |
綺華 (2014年11月21日 23時22分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
(その1は、【88】) ミヤギはそんな俺のことを心配してか、 「ねえ、自販機めぐりに戻りましょうよ」と何度も言った。 「私も自販機見るの好きになっちゃったんです。 あなたの背中にしがみついてるのも、好きだし」 それでも俺は歩き続け、考え続けた。 視野はどんどん狭まって、思考も偏っていって、 とてもアイディアなんか思いつく状態じゃなかったな。 気が付くと、以前よく訪れていた古書店の前にいた。 俺は店長の爺さんの顔が恋しくなって、中に入った。 爺さんはいつも通り、野球中継を聞きながら本を読んでいた。 俺はこの数十日で起きた一連の出来事を彼に話したかったが、 そんなことしたら爺さんが罪悪感を覚えるかもしれないから、 結局あの店には行かなかったふりをすることにした。 |
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