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【500】 |
Normad (2014年04月25日 22時32分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
あの時、カプセルの中に居た見覚えのない少年の姿に、何らかの手段で脱出したアキラなのかも知れないと 淡い期待を抱いていた彼女は正直落胆していた。 肉体的には、この少年とアキラ・サイトウに共通する部分は一切見当たらない。 ただし、この世界の医療技術から言えば、あの空白の12時間の内にそのように肉体を改造する事は十分に可能である。 犯罪者が別人に生まれ変わるために、徹底的に肉体を変える事は良くある事だった。 しかし、この少年はその後アルフィーネ自身が行った質問によるプロファイリングでも、アキラとは完全に異なる 精神構造をしていた。 あの聡明で厳格なアキラの人格のかけらもなく、そこには普通の少し臆病な少年の人物像が見えてくるばかりだった。 少年の記憶は完全にブロックされているか消去されており、彼は自分の生い立ちを全く思い出せないでいた。 DNAを採取して比較すれば良いのだろうが、生憎エリアマスターのDNA情報は厳格に管理されており レベル5のコントロールキーを持つ者、つまりはエリアマスター自身にしか参照できない。 ちなみに、この世界では個人のDNA情報を勝手に採取することは重大な犯罪である。 DNAからはクローンを作成できる。つまりアイデンティティを冒す事は、殺人と同罪と定義されていた。 (続く) |
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【499】 |
Normad (2014年04月25日 22時31分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
交通や通信の手段を絶たれた今、徒歩で移動するしかない。 アルフィーネは、途中電力を絶たれ混乱する住民達を指導しながら、一番近くのエリアを目指す。 そして、突然気になる場所を発見した。 プラントから約5Km離れた場所にある、緊急避難設備。 ナノマシンウィルスに襲われた場合に身を守るための救命カプセルが置いてある。 救命カプセル内には強い電磁波が発生されており、ナノマシンウィルスの活動を一時的に弱める事が出来るように なっている。 彼女は何故か解らないまま、なにか引かれるものを感じてその避難設備に立ち寄った。 避難設備内には、数十もの救命カプセルが並んでいる。そして、その中に通常でない特別仕様のカプセルを発見した。 外見では判らないが、ロック強度が異様に高い。 彼女は、その違和感に立ち止まってそのカプセルを凝視した。 そのカプセルには生命体が収容されているサインは無い。 最悪の状況の中で放置されていたカプセルに、誰も興味をを持つ筈もなかったが、彼女は奇妙な点を感じていた。 レベル7のロックが掛けられた特別仕様のカプセル。 救命カプセルに、そんな強度のロックをかけるのは奇妙だ。誰も開けられない可能性が高い。 それでは、もし本当にウィルスに冒された人が居たとしたなら、手遅れになる。 彼女は、意を決したように施設の緊急遮断シャッターを閉め、カプセルを開ける準備を始めた。 (続く) |
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【498】 |
Normad (2014年04月25日 22時30分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
アルフィーネは、そのエリアマスター、アキラ・サイトウの身の回りの世話をする秘書役だった。 第55エリアが襲撃を受ける12時間前、突然アルフィーネはアキラからその役の解任を受け、最後に 「迅速にプラントから脱出し、最大限に自分の身を守るように。その後の事はIEMOに従う事。」との命を受けた。 プラントの中の職員たち全てが、その命を受けたようだ。 突然の発令にプラント内部の人間は混乱に陥り、一部命令を無視した者たちは、その後のテロ集団の侵攻により 命を落とす事になった。 アルフィーネはアキラの最後の命令を聞いて、何故なのかを確かめたかったが、アキラはその後多くを語らず 指令室奥の部屋へと消えていった。 アルフィーネにとってはアキラの命令は絶対であり、プラントを脱出せざるを得なかったのである。 彼女は目を閉じるとアキラが消えた通路の方向に頭を垂れ、プラントを出る通路に向かった。 そして、その数時間後にプラントのあちこちから爆発音や銃声が響き、殺戮が始まった。 アルフィーネは自分の胸に湧き起こる黒い不安と戦いながら、プラント内に残る職員を助けて脱出した。 戦うには敵との戦力差が大きすぎる。まずはIEMOへの報告が必要と考えた。 (続く) |
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【497】 |
Normad (2014年04月25日 22時51分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
今から1年ほど前、J国エリアの中核を成す第55エリアは、突然テロ集団「ニーベルングの指環」の 襲撃を受け、地熱エネルギープラントの全設備を制圧された。 テロ組織に対して極めて高い防御力を持った地熱エネルギープラントの中でも、第55エリアは創始者サイトウの 直系の子孫がエリアマスターを務め、最も重要で防御力も高いエリアとして知られていたが、この時はわずか1日で 全てのシステムコントロールが奪取され、なすすべくもなく「ニーベルングの指環」の侵入を許し、そのリーダーである タリスマンの勝利宣言を許す事になった。 「ニーベルングの指環」の工作員達は、密かに第55エリアのコロニーに移り住み、蜂起の時を待って居たようだ。 普段は堅く閉ざされている要塞のようなプラントの出入り口は、システムコントロールを奪取した者によって開け放たれ 侵入した工作員は中に残っていた者を惨殺、制圧して、再び貝のように守りを固めた。 と同時に、コロニーの一般住民への電力供給を全てストップし、その結果住民たちは他のエリアへの移動を 与儀なくされる。 直接的な武力行使による占拠が困難なこの時代の世界においては、絵に描いたような見事な攻略だった。 その後第55エリアは「ニーベルングの指環」のその後の侵攻の基地として機能するようになり、一般人の入り込めない 黒い拠点として知られる事になる。 あっけなくエリアが侵攻された理由として、一説によると、エリア内部の高官の裏切りによる手引きがあったと噂された。 また、行方不明となったエリアマスターのアキラ・サイトウは既に病んでいて、エリアを防衛する気力がなかったと言う人も居る。 真実は闇の中にあり、それを明らかにするための情報もまた、第55エリアが敵の手に落ちた事から得られずに居た。 IEMOは、第55エリアが陥落した事に衝撃を受け、全力を挙げて真相を明らかにすべく調査を行ったが1年経過 した今も解明できていない。 IEMO監査室は、エリアが陥落する原因がエリアマスターの不手際にある事を証明するべく、アキラ・サイトウの 行方を追っているが、未だに発見されてはいない。 (続く) |
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【496】 |
Normad (2014年04月25日 22時26分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
彼はその言葉を聞くと、彼女から見えないよう更に顔をそむけて口を歪めながら絞り出すように言った。 「この旅は全て貴女の望みを叶える為のものなのでしょう。僕の望みなんかは必要ない筈だ。」 「違うわ。私も貴方と同じように何が目的なのか、把握出来ないで居る。それを探し出すための旅なんだと思うわ。 そして、貴方と私の望みが一緒である事を、いつか確認する事が最終目的よ。」 彼は驚いて彼女を見た。 彼女はまだ穏やかな表情で彼を見ている。 彼は何か眩しいものを見たように目を伏せた。 「貴女と僕の望みが同じ?そんな事信じられません。それに、同じなら今まで通り貴女が僕を導いて くれれば良いでしょう?」 彼女は少し表情を硬くして、彼から視線をはずし低い声で言った。 「そうも言っては居られないんだわ。貴方は私が居なくなった時の事も、考えなくてはいけない。」 それを聞いた彼は立ち止り、顔を歪めて彼女に抗議した。 「貴女は僕を救難カプセルから出してくれました。それは感謝しています。でも、それから先の事は 何故か解りません。僕は、全て貴女まかせでしか生きられなくなってしまった。その僕を貴女は 見捨てると言うのですか。」 すると、アルフィーネは駄々っ子をあやすように彼の肩を抱き、目を瞑って優しく語りかけた。 「勿論、私が貴方から離れると言うのは不測の事態を想定しての事よ。その事態は起こり得る事は確率的に 解っている。私は、貴方にそれを認識して欲しいだけ。今のままでは、そういう時に貴方は立ちすくんで しまうでしょう。どんな時も貴方には前に進む勇気を持って欲しい。さあ、行きましょう。」 彼女はそう言いながら、彼が特別仕様の救命カプセルに保護されて居た時の事を思い出していた。 (続く) |
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【495】 |
Normad (2014年04月25日 22時24分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
ウーズバンドと呼ばれたその少年は、渋々彼女の後に従って歩き始めた。 しばらく先に歩いていた彼女だったが、突然振り向いてとぼとぼと後をついて来る彼に言った。 「ここから先は貴方に先に行って貰うわ。いいですか、あの建物は救難設備です。そこまで。」 彼は驚いて目を見張り、抗議するように叫んだ。 「何故です。」 「貴方は先に進む事を恐れて居るわ。それではこれからの事に支障が出る。」 彼女は少し上気している彼の顔を見据え、無表情のまま言い放った。 彼は鼻白みながらも、俯きながら自信無げに呟く。 「僕は、貴女について行くだけです。貴女について行けば全てがうまく行くのでしょう。」 彼女は少し時間を置いて、回り込んで彼の顔を見ながら言い聞かせた。 「私の言う通りにして居たとしても、全てが望み通りに行くとは限りません。第一、貴方の望みとは何で あるのか、貴方自身が解っていないのではないのですか。」 (続く) |
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【494】 |
Normad (2014年04月25日 22時22分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
問われた彼女はちょっとの間無表情に考えているようだったが、すぐに微笑んで彼に噛んで含めるように話し出した。 「いいですか、ウーズバンド。地雷の駆除はいつかは誰かがやらなくてはならない事よ。勿論、今ここで本格的な 駆除はできないわ。でも、少しでも減らしておけば、あとでその作業が楽になるの。」 彼女には一つの特技があった。それは、ナノマシンウィルスの無効化を極めて高速に行うのである。 ナノマシンウィルスは、人間のDNAに対しある改変を行うようプログラムされているが、それが最初から有効だと 使用者自身が危険であるため、普段は休眠しており、ある特定のプロトコルにより電磁波で発動のインストラクション が与えられてから活動を始めるのである。 それはプロトコルとインストラクションさえ解れば、休眠、あるいは死滅させる事も出来ると言うことを意味した。 ただし、プロトコルとインストラクションセットは開発者と使用者のみが知っている事であり、あてずっぽうの 信号を与えても何も変化せず、逆に非常に危険な事である。 彼女はウィルスのプロトコルとインストラクションを驚く程素早く探り当てて、手早く死滅させる事が出来た。 それは非常に危険な作業にも関わらず、自分に失敗などあり得ないと言いたげな確信に満ちた行動だった。 周囲の心配を無視した彼女のこういう行為は、出会う人々に高慢な印象を与えた。 一度それを彼女に忠告した人物が居たが、彼女は無表情に「何故? 私には失敗する要素はないわ。」 と、答えたという。 「それに。」 彼女は言葉を切ると、振り向いて遠くを眺めた。その方向には第90エリアの地熱エネルギープラントがある。 急に吹いた風が、彼女の栗色の髪を揺らした。 「こうやって捜索していると、私たちが探しているものの手がかりがあるかもしれないわ。貴方の記憶を辿るための 何か、もね。さあ、来て。」 (続く) |
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【493】 |
Normad (2014年04月25日 22時21分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
少年が空を眺めていると、コンコンとソーラーカーの窓を叩く音がした。 少年がそちらを見ると、若い女性が窓の外で彼を見ている。 長身で均整の取れたその体を見せつけるような軽い服装で、何故かこの女性は対ナノマシンウィルス用の 防護服を着ていない。 その美しさは花に例えれば、赤いバラのような濃厚なものではなく、白い霞草。 花言葉は「清い心」。 彼が窓を開けると、青く澄みきった瞳で彼を見据え、形の良い唇から言葉が発せられた。 「人には休息が必要だけど、ぼんやりしているだけでは駄目よ。この辺のウィルス地雷は全て片付けたから 貴方も来て頂戴。」 彼はドアを開け、のろのろと地上に降り立ってから、不満そうに彼女に言った。 「アルフィーネさん、ウィルス地雷駆除は僕らの仕事ではないんでしょう。何故、プラントに直行しないんですか。」 その女性は、アルフィーネと言う名前らしい。年恰好から言えば20台前半のように見える。 ただ、この世界では人間の姿形は年齢とは殆ど一致しない。 整形術でいくらでも姿を変える事が出来るからだ。 ただし、美しさを誇る事は、治安のあまり良くないこの世界ではリスクを呼ぶ事を意味した。 実際、高額な手術代をかけて整形しても、それを快く思わない人物たちに集団で襲われ、ズタズタにされる事件が 何度となく起きている。 そういう意味では、彼女はそれを恐れない勇気、あるいは実力を持っていると言えた。 (続く) |
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【492】 |
Normad (2014年04月25日 22時19分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
何よりもこの地熱エネルギープラントは、設計時からセキュリティ面や外敵への防衛についても 徹底的に考えられたもので、それはサイトウの見識の高さを窺がわせた。 地下の要塞のような形で建設された地熱エネルギープラントは、太陽電池による施設のように 塗料を散布されただけで壊滅してしまうような脆弱さはなかったのである。 他国がお互いのエネルギープラントを邪魔し合い急速にエネルギー事情が悪くなる中、J国は 地熱エネルギープラントを着々と建設して行き、この国の未来は安泰かと思われた。 しかし、出る釘は打たれる。 他国のやっかみを受けたこの国は、言われもない総攻撃を浴びた。 ただし、化石燃料が絶えたこの世界では、大規模な航空戦力や地上戦力の直接攻撃を受ける事はない。 だが、もっと残酷で陰湿な攻撃を受けた。 ナノマシンウィルスを散布されたのである。 近づくとナノマシンウィルスを放出する地雷が大量に持ち込まれ、知らずに近づいたJ国国民はすぐに 物を言わぬ肉塊と化した。 特に首都東京では壊滅的な被害を受け、政府自体が多くの人材を失った事から、全く機能しなくなった。 現在ではJ国政府は失われており、IEMOが地熱エネルギープラントの責任者を任命して 間接的な統治を行っている。 地熱エネルギープラントの責任者は、別名「エリアマスター」と呼ばれ、地熱エネルギープラントと エリアのシステムを掌握している。 (続く) |
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【491】 |
Normad (2014年04月25日 22時18分) |
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これは 【トピック】 に対する返信です。 | |||
ここJ国は、比較的エネルギーのパラダイムシフトに成功した国だ。 国の総面積が狭く、太陽光エネルギーによるエネルギー調達がおぼつかない代わりに、火山国で有名なこの地は 地熱エネルギーにその活路を求めた。 地熱エネルギーによる発電は効率が悪く最初は困難を極めたが、劇的な変化をもたらしたのは高熱に耐え 熱差に比例して強い電力を発生する合金の組み合わせを発見した事だった。 熱電対による発電は可動部分が無いためメンテナンスが容易で、長期間の稼働に耐えうる。 高効率で熱に強い熱電対セルを地下のマグマにより近い場所に配置することで、高出力の電力を 半永久的に得る事が出来た。 200年はど前、後のサイトウ一族の始祖となるカズオ・K・サイトウが地熱エネルギープラントの第1号を 設計・施工し大きな成功を収めた。 この地熱エネルギープラントは発電された電力を用いた食料供給までも考慮されたもので 自然と地熱エネルギープラントの周りの地下に住民が集まりコロニーを形成する事になった。 このコロニーを「エリア」と呼んでいる。 エリアは数百を数え、J国では地熱エネルギーの恩恵で世界水準から言うとエネルギー不足に 悩まされる事が少なく、人々は安穏と暮らす事が出来た。 (続く) |
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